午後6時55分
小児科の先生がオレとポツイチの前にやってきた。
看護師さんが先生のサポートにつきポツイチの容体についての説明が始まった。
先生の説明内容の要約①
今日は赤ちゃんの心音の低下により緊急で帝王切開を行った。
心音が低下すると赤ちゃんは苦しくなり羊水の中で便をしてしまうが、おそらく比較的長い時間、羊水の中で苦しい状態が続いたため通常は白い臍の緒(臍帯)まで便の色が移り茶色く変色してしまってる。
しかし当初は呼吸が苦しそうな様子もあったが、現在は酸素の使用により数値も問題ないレベルになってきている。
元気に泣いているし呼吸が苦しそうな様子も徐々に良くなってきているので呼吸障害については今は心配はないと考えているがもう少し様子をみる。
お母さん(キノコ)に発熱があり、赤ちゃん(ポツイチ)に感染症の疑いが生じた。
そのため右手の甲から細い糸のような管を脇の下の太い血管までとおし、糖分・水分・そして抗生剤を点滴している。
最新の血液検査のデータでは、危険なほど数値が上がってきてはいないが明日以降に急激に上がってくる可能性もある。
今後行われる検査の結果を見ながら抗生剤の終了のタイミングを見ていく入院の予定は2週間。
もっと口調は優しく詳細に説明してくれたが最初の説明はこんな感じだった。
ポツイチの写真を撮りまくっていたさっきまでの楽観的な気持ちはどこかに消え失せていた。
「何かがあったからポツイチがここにいる」そうあらためて思った。
先生は終始、穏やかな表情で丁寧に説明してくれた。
さすが小児科の先生といった感じで、時々する質問にも具体的にゆっくりと答えてくれて、こちらにもわかるように説明してくれた。
キノコの発熱に関しては初耳で驚いたが自分なりの理解として、帝王切開の原因になったポツイチの呼吸障害については問題はなくなりつつあるけど、キノコの発熱や臍帯の汚れ具合をみると先生の経験値から感染症の疑いがある。
今現在発症しているのか、今後発症するかも全くわからないが、今できるリスクの排除を優先的に行っているのでNICUで処置している、という感じなんだと受け取った。
勝手な解釈だが多分あっていると思う。
そして先生から説明の続きが始まった。
「産まれたての赤ちゃんにはどの赤ちゃんにも等しく病気が隠れている可能性があります。」
「私たち医師は隠れている病気を最初に見つけておこうという考えから、心臓や大泉門のエコー検査をさせてもらっています。」
このあたりまで聞いたところで、先生の話し方がさっきまでとは違い少し回りくどい感じになった事に気付いた。
「ひょっとてまだ何かある?」
心配と不安で思考が停止しそうになりそうなのをこらえて先生の説明を聞いた。
先生の説明内容の要約②
心臓のエコー検査をしたが、穴が開いているとか狭いところがあるとかの先天性の心疾患はおそらくはないと考えられる。
が、気になる点として心臓につながる冠動脈が通常の赤ちゃんよりも太く映っている。
これは冠動静脈瘻という病気が隠れている可能性がある。
{エコー画像を見ながら説明を受ける}
しかし本当に冠動静脈瘻なのかは現時点では正直わからない。
それは体の小ささもあるが、さっき産まれたばかりで今はまだお腹の外の環境に適応する過程の中にいるため。
今、既に症状が出ているわけではないのでお腹の外の環境に慣れていく過程で今後も観察していきたい。
「心臓?」
冷静に聞いていたつもりが、心臓というワードが出てきた瞬間に思考のレベルメーターはレッドゾーンに行ってしまった。
そしてまだ続きはあった。
先生はあいかわらずの穏やかな表情で話し始めた。
先生の説明内容の要約③
頭の中での出血や脳室に拡大がないかを調べるため頭の上の隙間(大泉門)からのエコーを行ったが、おそらくそういうものはなさそうだ。
が、ここでも通常の赤ちゃんの状態では見られないものがあり気になっている。
それは頭の左側にあってエコーでは白く映っている。
{エコー画像を見ながら説明を受ける}
この場所は通常では白く映るところではない。
これが病気なのか、たまたま見えたものなのかはわからないが、今後大きくなっていくのかそれとも消えるのか、又はおかしな徴候が出てくるのかなどを観察していく。
今度は「脳」だ。
レッドゾーンに張り付いていたレベルメーターは壊れた。
もしこれらが本当ならこれってかなり重症だろう。
心臓は胸開けて手術?
頭はどうするんだ?
こんな小さいのにメス入れるなんてダメだろ?
平静を装っていたが無知なため心臓や脳と聞いただけで狼狽えてしまっていた。

ポツイチの現況についての先生の説明はここで終わった。
その後は突然何かあった時に手術が行えるように複数の同意書にサインをしたところで先生は退席していった。
今度は看護師さんから事務的な説明をうける、入院手続きのこと、面会時間のことなど、あまりに多く覚えきれないというか精神的には聞いていられる状況ではなかった。
ひと通り看護師さんとのやり取りが終わると時間は既に午後7時50分になっていた。
ここにきてもう1時間になる。
キノコは心配しているのではないか?
目の前で管をつながれながらも元気に動いているポツイチを見ながらそう思った。
ポツイチと離れるのは辛かったがNICUを退出しキノコの待つ産科病棟に向かった。
