緊急帝王切開でお腹を切ったキノコは入院する病室がナースセンターの前の部屋に移動になった。
キノコの容態が急変した時にすぐに駆け付けられるようにとの説明を受ける。
廊下でキノコの準備が整うのをみんなで待っていると看護師さんから午後6時ごろ小児科の先生からポツイチについて説明があるという事を伝えられた。
部屋とキノコの準備が整ったとのことでお義母さんとおばあさんと三人でキノコの部屋に入ることができた。
ベッドに横たわるキノコの顔色は青白く、少しむくんでいるように見えたが、目覚めていて笑顔を見せてくれたのでやっと少しだけ安心できた。
看護師さんからはまだ麻酔薬が背骨あたりから点滴されているということで体は動かせないと説明があった。
「ポツイチはどうだった?」
とキノコに聞かれた。
冷静にまだ会えていない事とさっき看護師から聞いた6時頃に小児科の先生から話があることを伝えた。
キノコは帝王切開でポツイチが取り出されたときに産声を聞いたらしく
「私は大声で泣いているのは聞けたよ」と教えてくれた。
お義母さんは頻りに「だから促進剤はを使うのは反対だったのよ」とキノコに言っていたが、本当に心配そうで、いわれてるキノコも嬉しそうだった。
しばらくたったころ産科の先生が1人だけ入ってきて今日の手術の顛末を説明していった。
促進剤による陣痛を促していたが胎児の心拍数の低下により母子にリスクが高まったので帝王切開を緊急で行った。
胎児について後ほど小児科より説明がある。
こんな内容だったがポツイチがNICUにいることや様子については口にしなかった。
しかし入室するなり満面の笑顔で
「ご出産、おめでとうございます!!」 とやや大声で入ってきたが、ポツイチにまだ会えていない家族としては複雑な心境だった。
やっぱり廊下のこっちとあっちでは受け取り方にも差が出てしまう。
寂しいことだ。
キノコも元気な様子だし、ポツイチに今日は会えないという事でお義母さんとおばあさんが帰っていった。
二人が来てくれて本当に心強かったし、キノコも喜んでくれていたので勝手に呼んでしまったけど後でキノコに怒られことも無いよね。
6時になり産科の先生が今度は大勢でぞろぞろと来る。
先頭の先生が「ご出産、おめでとうございます!!」 というと、従っている5~6人の先生方も続けて 「ご出産、おめでとうございます!!」 とやっていた。
ポツイチに会えていないので複雑な心境はかわっていないが、
「これが教授回診ってやつね」「これが大学病院なんだなぁ」と少し感心もした。
キノコのお腹の様子などをチョコチョコっとたずねたりしてまたぞろぞろと帰っていった。
その後姿を見て、朝早くから夕方のこんな時間まで、ほぼフル回転で診察にあたって、そのあとで入院患者の様子まで見に来なくちゃならないなんて、本当に医者は大変だなあと思った。
6時40分
ついにNICUからお呼びがかかる。
看護師さんに付き添われてNICU病棟に向かう。
NICUは産婦人科病棟を出て廊下を30mほど行ったところに入口があった。
インターホンが2つありひとつはNICU もうひとつにはGCUと書いてある。
インターホンを押し氏名を言うと扉を開けてくれた。
中に入ると20mほどさらに廊下が続き、その先の正面にGCU そしてその右側にNICUが見えた。
NICUの扉にはセンサーがあり手をかざすと扉が自動で開く。
そこには手荷物などを置けるロッカーがあり、その奥にはさらにセンサーで開く扉があった。
看護師さんに促されセンサーに手をかざしNICUに入る。
入ってすぐ洗面台がありそこでまずは手を洗う。
洗面台の上には手の洗い方や消毒の仕方、スマホなどの取り扱い方などが詳細に書かれている。
そのマニュアル通りに消毒を済ませ最後にマスクを装着したところで付き添いの看護師さんは産科病棟に戻っていき、かわりにNICUの看護師さんがポツイチのところまで案内してくれることになった。
看護師さんについて中を進んでいくと沢山の保育器が並んでいた。
それぞれの中に赤ちゃんが入っているようだったが、どんな心境だったか思い出せないが、なぜか中を覗かないように進んでいった。
5台ほど通りすぎたところで「あそこにいるのがポツイチちゃんですよ」と看護師が数メートル先を指差して言った。
数メートル先に目をやると、何やら物々しい機械に囲まれている保育器が見えた。
近づいていく。
顔の周りをカプセルで覆われているのがわかる。
さらに近づきポツイチと初対面。
保育器をのぞき込む。
初めて見たポツイチの鼻にはチューブが入れられていた。
右手も固定され、そこからもチューブが出ていた。
他にも胸や臍や足などにいろいろなものが取り付けられているのがわかった 。
ものすごく痛々しい姿での初対面になった。
「おーいポツイチ、パパだぞ がんばったな 大丈夫か?」
と弱々しい声で絞り出すのが精いっぱいだった。

「いったい、ポツイチになにがあったんだろう?」
そうだ。
ずっとそう思っていた。
廊下で待っている時、中々ポツイチが来ない時からずっとそう思っていた。
キノコが陣痛室から運ばれていったあとも特にポツイチの容体についてはNICUに入ったということ以外の説明もなかった。
普段なら待っている間にNICUについてGOOGLEで調べ、出産後にNICUに入ってしまう条件なども調べたりするはずだが、思考停止というか冷静になれずにというか、変な情報を入れたくなくて考えないようにしていたと思う。
なぜか?
それは妊娠当初から持っていた不安が一つだけあったからだと思う。
唯一の不安。
それは最近言われるようになった精子の劣化だ。
アラフィフのオレは50代だ。
「自分の精子が年齢によって劣化していてポツイチに何らかの影響が出ることになったら」
ずっとそう考えてた。
そしてそれが現実になってしまったのではないかと不安になって、待っている間も考えるのを止めてしまっていたんだ。
しかし、いざ対面してしまえば痛々しい姿ではあっても保育器の中で生きている我が子が愛おしく守るべき存在になったのを実感できた。
看護師さんに小児科の先生がもう少しで来てくれるといわれ、待つ間にキノコに渡すポツイチの写真や動画を撮りまくった。
こんな管付きのポツイチを手術をしたばかりのキノコに見せても良いのか悩んだがとにかく写真と動画をスマホ2台と360℃カメラ1台でとりまくった。
撮影中は
「動いてる動いてる。」
「おっ可愛いじゃねえか。」
「ちっちぇ~想像超えてるね」
「寝てるのか」
「なんかいっぱいついてるけど大丈夫なのか?」
「うっ こんなところからも管が出てる」
など色々な感情が交錯したが、心配ながらも既に親ばか状態になっていたと思う。
午後6時55分
小児科の先生がオレとポツイチの前にやってきた。
看護師さんが先生のサポートにつきポツイチの容体についての説明が始まった。
